失恋や別れで悲しい思いをしたときは、いっそのことその悲しい気持ちにひたすら浸っていくことも一つのストレス発散方法だといいます。
同じように失恋でつらい思いをしている人の思いに触れて、共感するのも良いでしょう。そのようにして涙を流したり気持ちを吐き出したりすれば、いつの間にか心もスッキリして次の恋に目も向いていくものです。
そこで今回は、失恋や別れを詠った百人一首の和歌や俳句をご紹介していきたいと思います。
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失恋・別れを詠った百人一首の和歌や俳句7選
一首目
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの あふこともがな
和泉式部『後拾遺集』
◆訳◆私の命は長くありません。あの世への思い出にせめてもう一度だけ、あなたにお会いしたいものです。
病気によって自分の死期を悟った和泉式部が、叶わない恋心を乗せて詠った和歌です。
死が迫ってきたときこそ大切に思いを寄せてきた人の顔が目に浮かぶもの。和泉式部は恋多き女性として知られているため、やはり最期も「会いたい!」とストレートに詠いたくなるほど、情熱的に愛していた人がいたのかもしれません。
自分の死に際に好きな人に会いたいと思う……というシチュエーションは、なかなか簡単に経験できるものではないでしょう。
二首目
うらみわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ
相模『後拾遺集』
◆訳◆つれないあなたを恨み、悲しみの涙で濡れたせいで乾く暇もない着物の袖でさえも口惜しいのに、その上この恋が原因で私の評判まで悪くなってしまうのは、本当に残念です。
これはわかりやすい失恋の和歌ですよね。振り向いてくれない男性に対して悔しく思い、着物まで濡れて乾かない!しかも恋に狂ったせいで私の評判まで悪くなってしまって悲しい!……そんな失恋によって味わった、まさに「踏んだり蹴ったり」な悔しい思いが出ています。
実は作者である相模という女性は、夫との結婚生活がうまくいかず、日常的に悩みを抱えていたようなのです。そんな悩ましい思いを実感として寄せている歌なのかもしれませんね。
確かに、失恋したせいで何もかもがボロボロになってうまくいかなくなれば、「あいつのせいで!悔しい!」なんて気持ちにもなり、愛情が憎しみ(?)に変わることもよくあることです。
三首目
忘らるる身をば思はず ちかひてし 人の命の惜しくもあるかな
右近『拾遺和歌集』
◆訳◆あなたに忘れ去られていく私のことはなんとも思いません。でも、いつまでも愛することを神に誓ったのだから、誓いを破ったことで天罰が下り、いずれは命を落とすことになるあなたのことを考えたら、とても残念に感じてしまいます。
これは振られた相手に対する未練や執着、そして心配といった複雑な感情を示す和歌になります。自分を振った相手は、いつまでも愛すると神に誓ったわけですから、それを破ったということは、いずれは神様から罰が下るということになります。
「私のことはいいけれど……」と自分のことは顧みないふうに相手を配慮しているものの、自分を捨てたことで相手に天罰が下ってしまうのは残念なことだ、と未練を感じさせながら相手を心配しているわけですね。
四首目
あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む
柿本人麿『拾遺集』
◆訳◆山鳥の尾が長く長く垂れさがっているような長い夜の中、私は(思いを寄せている人にも会えず)独り寝ているものです。
会いたい人に会えない夜や、失恋して恋人や好きな人に会えなくなってしまった夜は、とても長く感じてつらいですよね。夜の暗闇がまるで永遠続くようにも思えて、より一層物悲しく思えてしまう心理はあるでしょう。
五首目
嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る
右大将道綱母『拾遺集』
◆訳◆悲しみを嘆きながら孤独に寝ている夜が、明けるまでにどれだけ長いのかを、あなたは知っているでしょうか。……いえ、知らないでしょう。
これは作者である右大将道綱母が、夫が別の妻のところへいってしまってから送ったとされる嫉妬や皮肉を込めた和歌です。昔は一夫多妻制のもとで、さらに女性は夫が来てくれるのを待つばかりでした。
別の妻がいる世の中とはわかっていても、嫉妬の感情は抑えられず、「私の孤独感がどれだけか知ってる?どうせあなたは知らないでしょうね!」と皮肉の一つは言いたくなりますよね。
自分を振った恋人や片思い相手のことを夜に思えば、「私が今こうして悲しんでいることは、どうせ彼は知らないんだろうな……」と思えて確かにむなしくなることはあります。
六首目
あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
謙徳公『拾遺集』
◆訳◆私をかわいそうだと言ってくれる人は、誰も思いつかないままで、きっと私はむなしく死んでいくに違いないのだなあ…。
こちらも、「恋焦がれている人はいるのに、私のことを哀れんでくれる人は誰もいない…」とむなしく思っている男性の失恋の歌です。
好きな人はいても、振り向いてもらえず、それどころか悲しみを理解してくれる人が周りに誰もいないというのは、本当に切ないですよね。まさに失恋の絶望感や孤独感を表した和歌と言えるでしょう。
大きな失恋を経験すれば、誰だって悲しみに暮れてネガティブになってしまうもの。「私は世界中で一番孤独だ……」と極端なことを思ってしまう人も多いはずです。ですがどん底まで落ちれば、あとは上昇するだけです。
七首目
有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし
壬生忠岑『古今集』
◆訳◆有明の月はとてもそっけなく見えた。恋人にも冷たくあしらわれて、その時から、私にとって明け方ほど憂鬱な時間はないのです。
有明の月とは、夜明け前まで残っている月のことを言います。恋人の女性に冷たくあしらわれた男性は、そんなみじめな自分を照らす有明の月を非情なものに感じたのです。そしてそんな思いをしてから、彼にとって明け方は恋愛のトラウマを思い出せるつらい時間に……といった悲しい恋の思い出を詠った和歌です。
好きな人に冷たくされてむなしい思いをすれば、そんな自分を見ている月はなんだか冷淡なものに見えてしまいますよね。「月まで私をバカにするのか…!」と、悔しい心理に駆られるものです。
そしてそんな思いをすれば、夜が明けるたび毎回失恋のことを思い出してとてもつらいですよね。
失恋・別れを詠った百人一首の和歌や俳句まとめ
今回は、失恋や別れの悲しみや孤独などを詠った、百人一首の和歌を紹介させていただきました。昔から、「あの人のせいで…」「私は孤独…」「会えないのがつらい…」と多くの人が失恋で涙を流していたのは変わりませんね。
そんな時空を超えたたくさんの人の失恋の思いに触れれば、少しは気持ちも癒えるのではないでしょうか?
自分と同じ気持ちを味わっている人の思いに触れることも、メンタルコントロールの一つと言えるでしょう。ぜひ心にしみる歌を見つけて、立ち直るきっかけにつなげてみてくださいね。