「失恋した」と言えば、「フラれたんだろうな」というように取られるけど、そうでもない。失恋した人が「フるほう」になることもある。
フる人というのはそもそも、相手に愛想を尽かしたり、他に好きな人ができたり、愛情がめっきりなくなったりして、「別れ」を告げる。
でもそうじゃなくて、本当は好きなのに、本当はもっと一緒にいたいのに、本当はこの先もラブラブでいたかったのに、自ら「別れよう」と伝えるときがある。
私にもそんな恋があった。
それはどうしても、彼との未来に、私の望む関係が見えなくなったとき。
私は自分の心とは裏腹に、別れを決めた。
「フラれたことなんてない」なんて言ってるけど、失恋はちゃんとしてる。
Contents
出会いの日
彼とは始まりかたも、それはそれは曖昧だった。
彼とは友だちが主催するクリスマスパーティで出会った。クリスマスパーティーとは言っても、クリスマスの3週間ほど前に開催されたものだった。
女の子とばかり話している彼を見て「カッコいいけどチャラそうだな〜」と思っていた。分かりやすくモテるタイプで、彼もそんな自分を自覚していて、女の子のことも大好き! という感じ。
パーティも最後のほう、そんなチャラそうな彼と話すつもりのなかった私が、たまたま居た場所によって彼と会話をすることになる。
「僕4人兄弟なんですよ」
「え、そうなんですか? 私家族構成当てましょうか。お兄さん、あなた、妹、弟」
「えー! 大正解! すごいね!」
覚えてるのはこの話だけ。
なんで当てちゃったんだろう! すごいね! というお互いの驚きと、意外とまともに話せる楽しい人だな、と感じた記憶だけ残っている。
後日、最後の好印象もあって、彼から誘われて2人で食事をすることに。
初めて食事をした日、いつもなら1軒目で帰る私も、2軒目に行く盛り上がりを見せ、閉店までいたあと、帰り道に手も繋いで、キスもしちゃって、彼のお家に行くことになってしまう。
顔もタイプだし話してても楽しいし、盛り上がることそのままダイビング。あの頃の私は若かった。笑
その日を境に「また会いたいね」と、食事だけしたり、電話していい?と聞かれてなんだろう、珍しい……と思っていたら「クリスマス、会いませんか」と正式に誘われたりするような関係になっていた。
色のついた関係
私と彼との関係性を、確固たるものにしたのが、彼が「仕事仲間と飲んでるからおいでよ」と誘ってきた日のこと。
よくあるみんなでワイワイ飲む会なんだろうなと思って「ちょうど近くに居るから行くね!」と快諾し、飲み会に向かった。
でも着いた先は、彼と私と仕事仲間の、4人のなんともしっぽりした飲み会。
(わ、ちょっと真面目な感じ? ちゃんとしなきゃな〜)なんて思って席に着いたら、その中の1人が開口一番、「で! この方はどういうご関係の人で?」と彼にストレートに質問。そういうのが許される仲だったのでしょう。
そしたらば彼は「彼女です」と、私のことをはっきりと紹介した。
これにはびっくりした。彼は素敵な人だと思っていたけど、はっきりとしないグレーな関係でいることは、私自身も楽しんでいた。
歳も離れていたので、大人の男ってそんな感じでしょ? と理解ある女でいたのかもしれない。
だからこそ、はっきり紹介されたときは「え〜わたし彼女なんだ……こんな(チャラそうな)彼がちゃんと言ってくれるだなんて、嬉しいなあ」と内心ウキウキしていた。
失恋の始まり
飲み会も終わり、彼の家に帰ってからも私はウキウキがとまらない。
しかし、ひとり彼の寝室でほろ酔いのなか余韻に浸っていたら、ここで事件が起きる。
私にとって最初で最後の衝撃的事件。
もう簡単に言葉にするなら、「彼の寝室のゴミ箱から、すでに使い終わったコンドームが見つかった」のだ。
それは明らかに “他人とのもの” で、私は天国から地獄に突き落とされた気分になった。
1mmも「いや違うかもしれない」という否定が降りてこない。証拠が決定的過ぎて、否定する隙も、彼に言い訳する隙も与えられない。
「彼女です」と紹介されていなければここまで地獄にはならない。もはや見逃せていたものだった。私もそこまでうぶじゃない。グレーな関係に責任も期待も抱かない。女は私だけだとも思ってないし、私は私であなただけと楽しむつもりもないし、と思っていたから。
でもあえてその “責任を取るスタイル” を選ぶ彼のことを「真剣に思ってくれているんだ。私もちゃんと考えよう。これからそういう関係として大事にしていこう」と小さく決意するものがあった。
「彼女です」と紹介された事実は、確かに関係性を決定的にするには些細なことだし、関係性に名前と責任が生じた……! と一瞬でも感じたら、少なからず決意が生まれる。
ほんの30分前に生まれたその決意を、一瞬で打ち砕かれた私は、コンドームを発見した寝室のベッドで、シーツにくるまって泣いた。
私の様子がおかしいことに気づいた彼が寝室にやってきて、状況を把握し、バカみたいな言い訳を並べたあと、謝ってきた。
私はとにかく「今日はもうここに居られない。何も話すことはないし、怒りや悲しみに満ちた心を落ち着かせるためにも帰らなきゃ」と思って、何度も何度も止める彼を振り払って、深夜のタクシーに乗って家に帰った。
人は変わらない
それから数週間だか1ヶ月だかして、なんとなく彼のことを許そうと思い始めた自分がいた。人間は忘れるのが早い。特に好きになった相手には寛容になってしまう。
彼と会う約束を取り付け、その日は面と向き合って真剣な話をした。
「グレーな関係性だったら見逃していたことも、彼女と紹介されたあとに冷静に受け取れるものじゃない。
でもあなたも、私との関係に責任を持つと決めたのは最近のことだと思う。だからその前のことは許す。とても傷ついたけど。これからやり直していこうね。信じさせて」と関係の再構築を図ったんだよね。
それからも彼は自分の誕生日パーティで私を彼女として色んな人に紹介してくれたり、デートや電話をしたり、それなりの努力をしてくれていたと思う。
でも、それでも質問したLINEに平気で返事が数日間返ってこなかったり、今夜お家行っていい? と電話をかけた先で「いや今日はダメ、朝までになるかも〜」と酔っ払った口調で遊び呆けてる様子が何度か伝わってきたりもしていた。
ここに行きたいと言っても、なかなか叶えられることもなく、私は確かに彼女という立場なんだろうけど、でも求めてる関係性や繋がりは、まるで得られないんだということを実感した。
許すと決めて面と向かって話した日から、彼の誠実さが増すことを期待してたものの、見事に打ち砕かれ、彼のことを諦めた。そのときに私は確かに「失恋」した。
とはいえ失恋してから彼のことを忘れるのに時間はかからなかった。若かったし、出会いもあるので、すぐに見切りを付けたのだ。
2週間ほど、彼と連絡も取らず会わずしていたら「エマちゃんが行きたいと言っていた場所に行こうか?」と連絡がきた。
時すでに遅し。今さら無理だよ……と思い、そのとき連絡を返すついでに別れを告げた。
別れの理由を聞かれたので「私は好きだったけど、あなたからの愛情は感じられなかった。私が愛情をかけられない女だったからかもしれないけどね」と言って別れた。
返事は覚えてない。
これが、「好きだけど、諦めなきゃいけない、未来に期待できないから、終わらせよう」という、フるほうなのに失恋したパターン。
それから彼も、私とヨリを戻そうと何度かがんばってきたり、私も心揺れながら、今ならヨリを戻せるかも?と期待し、彼と向き合うその度に「人は変わらない」という絶望と教訓を胸に刻むことになった。
どんなに彼が自分のタイプで、ハイスペックで、周りも認める大の本命であっても、
行動や言葉で、安心できる愛情や信頼がないと、私はその人を愛し抜くことはできないんだと知った恋愛だった。
今でも彼は華の独身でいる。彼を変えることはできないけど、彼を受け入れてくれる人は居るかもしれない。結婚したら、相手はどういう人かは気になっちゃうかも。
でもねこれだけは言える。
ほんとはもう心底どうでもいいってことを。