「つづきがあればいいなぁ、このデート。」
「あるよ。僕たちはまたここで会えるよ。」
阪急京都河原町駅。
ここへ降り立つと心がミシミシ、不穏な音を立てる。
あの時聴いたJUDY AND MARYの「KYOTO」も、あの時食べた出来立ての阿舎利餅も、あの時交わしたデートの約束も。わたしが忘れていた記憶を、意地でも消させるものかと河原町駅が主張する。
そう。今日もここは、あなたと落ち合う”いつも”の場所だった。
歩幅を合わせて歩く人だった。
真っすぐと長く伸びたその脚が、わたしの元へ愛する人を運んでくれる。
ADAM ET ROPE'の茶色のスラックスにサイドラインが入った下ろし立てのソックス。端正な革靴が鳴らす石畳の音を、隣で聴くのが好きだった。
「わたし、歩くの遅いやろ?」
「ううん、心地良いよ。」
いつものスピードやと見落とす景色もあるからさ、と耳を赤くして話すその横顔。思い出の中まであなたは美しく儚く愛おしい。洋服も、香水も、髪をかき分ける仕草も、丸みのある言葉も。目に映るあなたのこと、いくつになっても河原町駅が忘れてくれなかった。忘れることを許してくれなかった。
本当はひと時も、忘れたくなかった。
「5年付き合ってる彼女がおるんよ。」
鴨川の河川敷で寄り添い、火照る身体に冷えたビールを流し込む。
「こんな僕やけどええかな。」
巡るアルコールを追いかけ、大好きだったあなたを見失った。
わたしの顔色を伺うその顔を、強く引っ叩く勇気があったなら。
わたしはこの地を愛せていたかもしれないね。
あなたの顔色を伺うこの心を、静かに殺す勇気があったなら。
わたしはわたしを救えていたかもしれないよ。
「僕たちはまたここで会えるよ。」
終着駅、京都河原町駅。
私もまた、ここで会いたかったよ。
こみ上げる惰性を飲み込み帰阪した。進むことのない恋をこの地に停めて。
- そう。今日もここは、あなたと落ち合う”かつて”の場所だった。 ―